GBRCニュース   2005.11.14

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阿部誠教授(GBRCフェロー)共著の

       『マーケティングの科学』が出版されました

 

阿部誠教授(GBRCフェロー)共著の

 

阿部誠・近藤文代著

『マーケティングの科学−POSデータの解析−』朝倉書店(3,885円)

 

が出版されました。阿部先生から長文の内容解説をしていただきましたので、ご

紹介いたします。

 

 近年、バーコード・スキャナー技術の発達により膨大な量のPOSデータを正確

に収集することが可能となった。国内ではニールセン、インテージ、流通経済研

究所などが、また海外ではニールセンやIRI等の大手マーケティング・リサーチ

会社が、業務サービスとしてスキャナー・データを収集している。この本では,

マーケティング分野におけるスキャナー・データに対する様々な最新の統計的分

析手法にもとづく予測と発見の方法を紹介する。

 小売店のレジから自動的に収集されるスキャナーデータは、主に商品管理、在

庫管理、発注などのサプライチェーンに使われてきた。この側面では日本でも活

用が十分に進んでおり、効率的な物流(ロジスティクス)と組み合わせることに

よってセブン・イレブンなどのコンビニエンス・ストアは先駆的な利用をしてい

る。しかしながら、このサプライ・サイドにおける利用はプロダクト指向の発想

にすぎず、スキャナー・データの利点を十分生かしているとは言えない。

 スキャナー・データを見れば商品の売れ筋はすぐ分かるので、単純に売れない

商品を棚スペースの最適化という観点から外してしまうことはよくあるが、これ

は間違いである。実は少数の優良顧客がその売れない商品を目当てに来店してお

り、ついでに他の商品も購買しているかもしれない。この場合は併売ではなく、

顧客の併買行動を知ることが重要なのである。来店を促し、客単価を増やして真

の競争優位を得るためには、デマンド・サイドからの視点、つまりマーケティン

グ指向に立つことが必要なのである。スキャナー・データのマーケティングへの

活用になると、日本はまだ欧米の企業に遅れをとっている。

 大量のデータから知見を自動的に抽出できるということでは、近年データマイ

ニングがよく言及されるが、これは実務家に過剰な期待をいだかせている。得ら

れる多くの発見が、すでに知られているあたりまえのようなことか、逆にたまた

まデータのノイズに反応した再度起こりえないような現象なのである。データマ

イニングの有効な使い方は、現場を熟知した者が仮説を立てて焦点を絞りながら

新たな分析を繰り返すことによって知見を追及していくことである。このこと

は、分析者が頭の中で暗示的なモデルを構築し、その検証とさらなるモデルの精

緻化を繰り返すことを意味する。そうでなければ誰がデータマイニングをしても

同じような結果になり、他企業に対する競争優位なポジションは得られない。

 この本で紹介するような明示的なモデル化との大きな違いは、共通のルールを

導こうとするデータマイニングではマーケティングで決定的に重要な消費者の異

質性が十分に考慮されていないことである。スキャナー・データが手に余るほど

大量に蓄積されていると前述したが、購買行動を個人レベルでモデル化し、さら

に異質性を考慮して1人1人のパラメータを推定しようとすると、データマイニン

グを適用できるほど十分なデータ量は無く、統計モデルが必要になってくるので

ある。さらに、ニューラルネットワークを用いる場合には、予測モデルを構築す

る前に原データの季節調整やトレンドの除去が必要であると最近の論文では指摘

されている。これはモデルの誤差項に系列相関がなく、単純な構造を考慮する場

合にのみ、データマイニングによって良い予測が得られていると考えられる。

 この本では、スキャナー・データの分析で使われる手法を説明し、いくつかの

例に基づいてマーケティング上どのような発見があり、どういう知見が得られる

かを紹介する。まず第I部でPOSシステムと関連データを紹介し、マーケティング

の基本コンセプトを述べる。そして分析手法として、第II部ではPOSデータを用

いた動的な時系列分析と、マーケティング変数を含めたクロスセクショナルな動

的分析に有用な多変量時系列構造モデルを説明する。第III部では顧客別購買履

歴を含んだスキャン・パネルデータを用いた非集計データの分析として主にブラ

ンド選択に焦点をあてて、シンプルなロジット・モデルからそれに消費者の異質

性を組み込んだ精緻な階層ベイズ・モデルまで紹介す

る。読者は、マーケティング・サイエンス分野の学者・研究者、マーケティン

グ・リサーチ会社やコンサルティング会社のアナリスト、大学院生を対象として

いる.

 

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