2012 年 11 巻 8 号 p. 503-520
本稿では、組織における新技術評価について、主に日中アニメーション産業の「Flash アニメーション」への対応事例を通じて明らかにする。既存技術である手描きアニメーションと比べて、新技術であるFlash アニメーションは労働節約的な新技術と認識されている。しかし、日本に比べて労働コストが相対的に低い中国のアニメーション制作企業の方が、Flash アニメーションを積極的に導入している。その要因を明らかにするのが、本稿の目的である。結果として以下の点が明らかになった。ひとつ目は、中国の企業は既存技術である手描きによるアニメーションの制作能力に関して日本に劣っていたが、Flash アニメーションでは品質的な差が生じにくく、相対的に評価しやすいものであったということである。二つ目は、労働コストに対する製品の買い取り価格が日本に比べて中国の方が低く、労働節約的なFlash アニメーションを評価しやすいものであったということである。加えて、日本に比べて中国ではアニメーション市場が拡大傾向にあったり、制作企業自身が制作費を負担して主導権を握っていたりするために、新技術導入の決定をしやすい状況であることも明らかになった。