赤門マネジメント・レビュー
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コンピュータ産業研究会報告
光ディスク産業のビジネス・アーキテクチャとその変遷
小川 紘一
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2003 年 2 巻 9 号 p. 421-474

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抄録

光ディスク産業では、CD系と非CD系(相変化記録やMO)とで競争が行われ、前者が圧倒的に勝利を収めた。CD系のビジネス・アーキテクチャがマーケティング主導であり、インストールド・ベースとの互換性を徹させたためである。後者の非CD系は、開発主導のビジネスであった。互換を無視してでも独自の規格を浸透させようと、国際標準化機構の舞台で覇権争いを繰り広げたがビジネスとしては成功せず、多くが市場撤退を余儀なくされた。MOもインストールド・ベースが全く無い環境で始めた。開発主導型であったので市場を日本に絞り込み、まずはニッチ市場でユーザ・インフラ構築を最優先させた。商品開発は、互換性(媒体互換)を徹底させるマーケティング主導を貫いた。日本市場では広く普及し、高い利益率を誇ったが、ニッチ・ビジネスに留まっている。インストールド・ベースとの互換性を重視すると、開発期間が短縮され、従来部品を使い回せるので大幅なコストダウンにつながり、市場参入コストが非常に安くて済み、在庫管理コストも少なくて済む。いいことばかりのように見えるが、ここから本質的な技術革新が起きないという問題も生じる。それ以上に深刻なのは、既存のインストールド・ベースとの互換性を守れば守るほどパソコン内蔵市場へのOEMしかビジネスの出口が無くなるという現実である。主要市場がパソコン環境に集中しているためであり、ここに互換・非互換が絡む深い問題が横たわっている。日本企業の一部は、CD-R/RW媒体でブランドを生かすビジネス・アーキテクチャへと進化させて成功した。しかし互換性維持で成功するかに見えた大部分の装置メーカーは、モジュラー化が進むパソコンOEM市場で劣勢に立たされ、多くが撤退を余儀なくされた。DVDでもその兆候が見える。Post DVDであるBlu-rayやAODでも非互換か互換かの覇権争いが再燃した。日本の光ディスク業界は次々に次世代技術を生み出すが、これを高収益に結び付ける大きな仕掛け作りではまだ成功していない。産業再生には技術革新とビジネス・アーキテクチャ構築の両方の視点をもつ人材育成が求められ、Post DVDがその試金石となる。

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© 2003 特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
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