ABAS Article List 2016 in APA Style


Kosuge, R., & Takahashi, N. (2016). The survival of market orientation through artificial selection. Annals of Business Administrative Science, 15(6), 273-284. doi: 10.7880/abas.0161109b Download (Available online December 13, 2016)

旧来の販売志向からプロセス重視の市場志向へと転換した日本の自動車ディーラーでは、(1)市場志向プログラムがもっていたプロセス志向・チーム志向が、営業員の自己概念や自己同一性を脅かすものとして受け取られ、大多数の営業員から拒絶された。にもかかわらず、(2)5%相当の3店舗だけがチーム志向・プロセス志向を受容したので、経営者はその3店舗の管理者を抜擢し、評価報奨制度に「チーム報奨」を導入したことで、市場志向が組織内で他店舗にも普及していった。ただし、この会社で起きたことは自然淘汰などではない。当初、これらの3店舗の業績は悪く、最下位を争っている店まであり、自然淘汰されるはずの側だったのである。しかし、経営者がこの3店舗を生き残らせ、さらにプロセス重視の市場志向の定着を待って、それを横展開させた。つまり、人為淘汰による制度的同型化が起きたのである。

Min, S. (2016). Adverse user innovation: The case of a semiconductor equipment manufacturer. Annals of Business Administrative Science, 15(6), 265-272. doi: 10.7880/abas.0161109a Download (Available online December 13, 2016)

かつてvon Hippel (1988)は、半導体製造装置などでは、ユーザーである半導体メーカーがイノベーターの役割を果たしていたとして、ユーザー・イノベーションと呼んだ。しかし、彼の研究とほぼ同時期に、日本の半導体製造装置メーカーのULVACは、本来ユーザーである半導体メーカー側が取り組むべき基礎研究であるコバルト・ニッケル・クローム(CoNiCr)の材料組成の基礎研究を自ら行い、その研究成果を使った新たなHDD用製造装置を開発して、ユーザー側に提供していた。これはユーザー・イノベーションとは逆の「逆ユーザー・イノベーション」とでも呼べるような現象であり、こうした事例は、他にもたくさん見つかる可能性がある。

Suh, Y. (2016). Mother factory vs. model factory: Comparative study of international knowledge transfer. Annals of Business Administrative Science, 15(6), 251-263. doi: 10.7880/abas.0160831a Download (Available online December 9, 2016)

日本企業の生産システムは、その優れた生産性から企業特殊的優位があるといわれた。そして、トヨタ自動車に代表されるように、マザー工場制は日本的生産システムを海外に移転する主要な手法として使われてきた。しかし最近では、韓国の現代自動車のように、明らかにマザー工場制とは違う方式で海外移転する企業も現れた。そこで本稿では、それをモデル工場制と呼び、知識移転論を使った枠組みでマザー工場制との比較を試みる。この枠組みでは、生産システムを本国が持つ知識だとみなし、メンバー、ツール、マニュアルは直接移動する知識; スキル、組織、レイアウトは、受信側で再現される知識であると分ける。この枠組みで日本のトヨタ自動車と韓国の現代自動車の海外への生産システム移転の事例を分析すると、マザー工場制は本国工場が中心になって知識移転を行っているのに対し、モデル工場は本国本社が中心になって知識移転を行っていたことが明らかになる。

Shiu, J.-M., & Yasumoto, M. (2016). Benefitting from contributions to the Android open source community. Annals of Business Administrative Science, 15(5), 239-250. doi: 10.7880/abas.0160825a Download (Available online October 16, 2016)

オープン・ソース・コミュニティ(OSC)は誰もが利用可能な集合的な知識を構築する場であり、必然的にフリー・ライダーを生み出す可能性がある。にもかかわらず、多くの企業がOSCに貢献している。本研究では、2010年から2013年の期間に、Androidスマートフォン10社について、各社の(a)ソース・コードへの貢献と、(b)最初のAndroidスマートフォンのリリース時期で測定した“time-to-market”の関係を分析した。その結果、10社は次の2群に分かれていた。(A)ソース・コードにより貢献することによって、競合他社より早く製品をリリースしている群と、(B) ソース・コードへの貢献が少なく、(A)群よりはリリースが遅い群である。加えて、わずか数年の間に、(B)群から(A)群へと移行する会社も観察された。

Kim, H. (2016). Language strategy: Beyond Englishization. Annals of Business Administrative Science, 15(5), 221-237. doi: 10.7880/abas.0160430a Download (Available online October 12, 2016)

本稿では、2000年代後半より議論が本格化されてきた多国籍企業の言語戦略に関する既存研究をレビューする。アカデミアでも、実務家の中でも、Englishizationだけが強調されがちであり、実際、English as lingua francaを当然のこととして、Englishizationにより発生する組織的問題やその解決のアプローチを取り扱う議論は数多い。しかし、English as lingua francaは、本来、選択肢の一つに過ぎず、多国籍企業の言語戦略がEnglishizationを意味するというのは誤解である。言語戦略の既存研究では、むしろ、より多角的な視点からbilingual戦略やmultilingual戦略が提唱されており、より多様な言語的選択肢の可能性を比較検討するが故に、言語「戦略」と呼ばれているのである。

Hamamatsu, S. (2016). Leveraging torihiki-jisseki through Japanese small- and medium-sized enterprises' overseas businesses. Annals of Business Administrative Science, 15(5), 211-220. doi: 10.7880/abas.0160731a Download (Available online September 30, 2016)

従来の「海外生産展開によって国内の生産が減る」という空洞化の議論に対して、近年、主に国際経済学の分野において「海外生産展開によって国内の生産が増える」という現象が指摘されるようになった。その具体的なメカニズムについて、Amano (2000)は、経営資源が豊富な大企業であれば、海外生産展開が自発型転換行動と誘発型転換行動を促すことで国内生産の増加をもたらしうると主張した。それに対して本研究では、経営資源が貧弱な中小企業のケース研究から、豊富な経営資源を前提としないメカニズムを発見した。それは、本国では固定的な取引関係ゆえに新規顧客獲得)が難しい自動車部品産業において、海外生産拠点で新しい顧客との取引が実現すると、その「取引実績」をテコに本国内で新規顧客開拓ができるようになるというメカニズムである。これは、日本国内での成長・生存を望む日本の中小企業は、国内展開よりもむしろ海外展開を目指すべきだという逆説を意味している。

Inamizu, N. (2016). Spurious correlation between work environment and job satisfaction: An office move case. Annals of Business Administrative Science, 15(5), 199-209. doi: 10.7880/abas.0160803a Download (Available online September 27, 2016)

本研究では、オフィス移転をしたX社を対象に、移転前後の2時点で全従業員を対象とした質問紙調査を実施した。その結果、オフィス移転により職場満足度は有意に高まったが、職務満足には有意な変化は見られないどころか、低下する傾向も見られた。合わせて、職務満足の要因として知られる見通し指数も計測したところ、移転前後で有意な変化は見られなかった。オフィスに関する既存研究では、職場満足度が高まると主張されてきたが、このような単純な因果関係は想定しにくく、さらなる検証と考察が必要不可欠であることが示された。

Ogami, M. (2016). Factors influencing the S-curve: Analyzing the float process technology of the glass industry. Annals of Business Administrative Science, 15(4), 187-197. doi: 10.7880/abas.0160430b Download (Available online August 15, 2016)

本稿では、1954年から2015年までのガラス産業のfloat processに関する特許の出願動向のデータを用いて、技術のS-curveが出現するかどうかを検証する。横軸を時間にした場合、米国、ヨーロッパでは技術のS-curveらしきものが出現するが、日本では見られなかった。S-curveは技術の物理的限界を表すものとされるが、正確には、Foster (1986)は、性能向上のために投じた努力量と、その成果の関係を表す関数だとしていた。性能向上のためにどれだけの努力量を投入するかは、企業によっても、社会的要因によっても異なるはずである。そこで本稿では、さらに企業ごとにも分析を行い、(1) 各企業が市場の要請にいかに応えたかについて、(2) Ogami (2015)が示唆していたライセンス契約におけるグラントバック条項の影響について、実際のデータを用いて検討した。

Kikuchi, H. (2016). Social shaping of technological trajectories of Shinkansen. Annals of Business Administrative Science, 15(4), 175-186. doi: 10.7880/abas.0160605a Download (Available online August 9, 2016)

東海道新幹線は1964年の開業当時、世界に類を見ない最高速度200km/hを超える電車として登場した。航空機との競争のためには、さらなる速度向上が必要だったが、その後20年間、最高速度は向上しなかった。その間、技術的に可能な速度である試験車両の最高速度は向上していた。営業速度向上を妨げていたのは技術的要因ではなく、次の社会的・組織的要因だった。(1)社会的要因: 騒音の環境基準設定や公害訴訟により、速度向上より環境対策が優先された。(2)組織的要因: 国鉄時代にストライキと遅延が頻発し、ダイヤに余裕時間が必要だった。しかし、1987年の国鉄の分割民営化の時期に前後して、(1)環境基準が緩和され、裁判が和解した。(2)国鉄の民営化に直面し、労働運動が下火になり、労働組合が解体した。これにより阻害要因は取り除かれ、営業速度が向上し始める。

Byun, S. (2016). Hyundai Steel's ramp-up strategy and the learning effect. Annals of Business Administrative Science, 15(4), 163-174. doi: 10.7880/abas.0160531a Download (Available online July 20, 2016)

開発を始めたら、できるだけ速く製品を市場に投入し、投資を回収することは、企業活動の根幹をなす。製品を市場に投入するまでの時間は、大きく製品および工程の開発時間と生産ランプアップ時間に分けられる。既存研究では、主に開発効率を上げることで、開発時間を短縮することに焦点が置かれてきた。しかし、開発期間をいくら短縮したとしても、生産ランプアップが遅くなると、結果的に投資の回収も遅れてしまう恐れがある。本稿では、韓国の鉄鋼大手、現代製鉄が高炉技術を導入し、量産に至るプロセスを分析する。同社は、3基の同一仕様の高炉を次々と途切れることなく導入することで学習効果を最大限に生かす戦略をとった。そのうちランプアップに関しては、3基の高炉で期間がオーバーラップしないように計画し、同じランプアップ・チームが次々と生産を立ち上げていくことを可能にした。その結果、一つの高炉でのランプアップの経験を次の高炉のランプアップに生かすことができ、その学習効果により、ランプアップ時間は片対数グラフで直線的に短縮することに成功している。

Akiike, A., & Katsumata, S. (2016). Characteristics of dual product users: The case of mobile phone market. Annals of Business Administrative Science, 15(3), 149-161. doi: 10.7880/abas.0160413a Download (Available online June 15, 2016)

日本の携帯電話市場において複数の携帯電話端末を使い分ける「2台持ちユーザー」と呼ばれる特異なユーザーが見られた。2台持ちユーザーの特徴を見ると、携帯電話への消費者知識が高いことが明らかとなった。彼らは消費者知識の高さをもとにした情報処理能力によって、複数の製品を使いこなしている可能性がある。実際、当時の携帯電話市場はiPhoneとそれ以外のスマートフォン、フィーチャーフォンの間で各々特徴が異なっていた。また、2台持ちユーザーは携帯電話をゲーム目的で使用する傾向にあった。この背景には、日本のスマートフォンの通信料の高さ、複雑さが存在した可能性がある。消費者知識が高いユーザーはそれらの特徴を見極めながら、自らの利用行動を加味して携帯電話を使い分けていたと考えられる。このような結果は高知識層向けマーケティングの可能性を広げるものである。

Kikuchi, H., & Iwao, S. (2016). Pure dynamic capabilities to accomplish economies of growth. Annals of Business Administrative Science, 15(3), 139-148. doi: 10.7880/abas.0160213a Download (Available online May 13, 2016)

ダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic capabilities以下、DCと略記)はTeece, Pisano and Shuen (1997) を起源として、広く議論されてきたが、DCとはどんな能力かについては、いまだイメージが定まらない。Teece et al.は、DCを組織プロセスの中に埋め込まれている役割の1つとしたが、この組織プロセスに統合/調整のような静的な概念も含まれていたことが混乱を呼んでいる。そこでHelfat and Winter (2011) は、operational capabilitiesとDCという2つの概念を対峙させた上で、両者に共通する能力も存在することが混乱の原因だと考えた。すなわち、pure operational capabilities・pure DC・共通能力の3種類が存在すると考え、operational capabilitiesを除いたpure DCが観察される例として、小売業の店舗のexpansion等、企業が成長している例を挙げたのである。このようにpure DCが企業成長に必要なpureな能力であるとすると、その主要部分は、かつてPenrose (1959)が考えた「economies of sizeとは異なるeconomies of growth」をもたらす能力と同じである可能性が高い。こうした成長時以外には未使用資源となる能力をTakahashi (2015)は、より具体的に「立ち上げ屋的な能力」であると推測している。

Kuwashima, K. (2016). Drug discovery process: A case study on Takeda. Annals of Business Administrative Science, 15(3), 129-138. doi: 10.7880/abas.0160224a Download (Available online May 11, 2016)

医薬品の研究開発では、理論的には10の60乗もあると言われる多数の潜在的な代替案(化合物)のなかから、どうやって新薬を発見するかが重要な課題である。本稿では、武田薬品の「ロゼレム(Rozerem)」の事例分析を通して、新薬の発見プロセスを探る。近年は、自動化技術を活用して大量の代替案(化合物)を創出しテストする手法が主流であるが、本事例では、研究者の経験と知識に基づいた論理的な化合物設計によって、少数の代替案の探索で「ロゼレム」が発見された。

Kono, H. (2016). The role of weak ties in diversification strategy. Annals of Business Administrative Science, 15(3), 119-128. doi: 10.7880/abas.0160309a Download (Available online April 21, 2016)

本論文は、多角化を成功させたプロセスを、「弱いつながり」という視点に基づき、分析するものである。弱いつながりは、従来の知識と重複しない新規の知識をもたらすため、企業が新市場に参入する際に、有用なものといわれる。自動車用部品から医療機器への多角化成功例となった東海部品工業を取り上げ、多角化プロセスを分析した。東海部品では、社長が率先して弱いつながりを形成し、その後、弱いつながりを強いつながりに育てることによって、医療機器への参入に必要な知識と能力を獲得していた。その結果、医療機器への多角化を成功するために乗り越えるべき三つの壁―技術、規制、市場―を段階的に克服することが可能となった。

Kobayashi, M. (2016). Multinational enterprise-driven industrial agglomerations: Business practices in China’s Dalian software industry. Annals of Business Administrative Science, 15(2), 105-117. doi: 10.7880/abas.0160228a Download (Available online April 2, 2016)

中国大連にはソフトウェア産業の産業集積が形成されていると指摘されている。同じハイテクの産業集積の代表例であるシリコンバレー(SV)の産業 集積については、多くの研究が、SVの企業は域内で醸成される商習慣に馴染むことで必要な資源を獲得できると指摘し、それが定説となっている。だが、大連においては、そのような傾向は見出せない。大連のソフトウェア産業は、対日ビジネスで特徴づけられ、日系の多国籍企業(MNE)の影響力が強い。そのため、産業集積内の中核企業は、MNEの日本本社やその海外子会社と取引する必要から、MNEの本国本社の経営システムを積極的に採用することで成長し、産業集積を形成してきた。すなわち、同じハイテク産業集積にもかかわらず、SVの企業は域内の商習慣に馴染むことが資源獲得の要件となり、対照的に、大連の現地中核企業はMNEの商習慣を採用することが資源獲得の要件となっている。従って、SVの産業集積を「モデル」としてハイテク産業の産業集積全般に普遍化することはできず、むしろ特殊な事例である可能性が高い。

Ichikohji, T. & Katsumata, S. (2016). The relationship between content creation and monetization by consumers: Amateur manga (doujinshi) and music in Japan. Annals of Business Administrative Science, 15(2), 89-103. doi: 10.7880/abas.0151214a Download (Available online March 11, 2016)

日本のコンテンツ産業の競争力の源泉の一つが、アマチュア消費者の創作活動である。本研究は、まず、printed amateur manga (comic)である同人誌に関する先行研究を、歴史・現状、日本以外の国の(海外)動向、ジェンダー、著作権という観点から整理した。次に、本研究では、既存研究が焦点を当てていない観点、すなわち、複数のコンテンツカテゴリーにおける創作活動と収益性との関係性に関して、3つの仮説を含むリサーチモデルを構築した。そのうえで、本研究は、仮説を検証するにあたって、マンガと音楽に対する創作活動・収益化活動に関して、2593人の消費者を対象としたアンケート調査を行った。結果として、以下の点が明らかになった。1.コンテンツカテゴリーにて創作活動を行う消費者は、他のコンテンツカテゴリーにおいても創作活動を行う傾向がある。2.あるコンテンツカテゴリーにて創作したコンテンツの収益化を行う消費者は、他のコンテンツカテゴリーにおいても収益化を行う傾向がある。3.複数のコンテンツカテゴリーで創作活動を行う消費者は、創作活動の収益化を行う傾向がある。また、マンガと音楽のcreation・monetizationがどの程度行われているのかについても示した。

Wada, T. (2016). Reconsideration of characteristics of information-based resource. Annals of Business Administrative Science, 15(2), 75-87. doi: 10.7880/abas.0160118a Download (Available online March 10, 2016)

日本の経営学研究において、資源の分類としてヒト、モノ、カネ、情報の4つを用い、なかでも情報資源を重視する考え方が根付いている。情報資源が 企業固有のものであり、競争優位と模倣困難性の源泉となるという考え方は、1980年代に日本企業が高い国際競争力を発揮した理由を説明しているように見えた。ところが、現実には、1990年代以降、日本企業の国際競争力は低下する。実は、(a) 情報資源には、資源としての情報けでなく、それを活用する能力も含まれ、(b) 模倣困難性が低いものも混在し、(c) 情報資源がヒトやモノに粘着的であるかどうかと、ヒトやモノが企業に粘着的で取引困難であるかは別の問題だったのである。そうした事実は、日本企業が終身雇用制度により人材に体化された知識を企業内部に蓄積していた1980年代までは露呈しなかったが、1990年代以降、その前提条件が崩れたために、人材に体化された情報資源は流出し、日本企業の国際競争力が低下することになったのである。

Song, W., & Suh, Y. (2016). Making gatekeepers in supplier systems: A case for offering customer solutions. Annals of Business Administrative Science, 15(2), 59-73. doi: 10.7880/abas.0150805a Download (Available online January 17, 2016)

本稿ではグローバル素材サプライヤーA社のprofessional organization for offering customer solution (POOCS)を事例分析する。素材を扱うA社は川上に位置していて、直接取引を行う顧客はサプライヤーシステムの中では2次、3次の企業が多く、サプライヤーシステム全体の方向性や産業全体のトレンドの理解が難しかった。しかし、POOCSを作ったことで、A社内の技術者は、semantic noiseに煩わされることなく、外部のChain CaptainやTrend Settlerの情報を理解して、ソリューション提案をできるようになった。すなわち、POOCSは、Allen (1977)のゲートキーパーと同様の機能を果たしていたのである。Allenは、ゲートキーパーの存在とパフォーマンスの関係までは見出せなかったが、 A社の事例では、POOCSを作り、ゲートキーパーとして機能させることで、明らかにパフォーマンスが向上した。

Sato, H. (2016). Generalization is everything, or is it?: Effectiveness of case study research for theory construction. Annals of Business Administrative Science, 15(1), 49-58. doi: 10.7880/abas.0151203a Download (Available online December 27, 2015)

Eisenhardt (1989)は、理論構築のためのケーススタディの方法論的基礎として最も引用されている研究の1つである。本稿ではまず、Eisenhardt (1989)が主張する方法を要約する。Eisenhardtは、理論構築のための有力な研究手法としてケーススタディを行うための9段階のステップを提示している。しかし、Eisenhardtを引用している研究の多くでは一般化可能性ばかりが強調されている。確かに Eisenhardt (1989)は実証主義の立場を取り、定量的な実証研究を意識したものとなっている。しかし、必ずしも一般化可能性のみを強調しているわけではない。にもかかわらず、Eisenhardt (1989)に依拠して行われた研究でも一般化可能性ばかりが重視されている。そのため、ケーススタディによる理論構築の可能性が制限されている。

Oki, K. (2016). The history of a mother factory. Annals of Business Administrative Science, 15(1), 29-48. doi: 10.7880/abas.0151111a Download (Available online December 13, 2015)

本研究の目的は、マザー工場という言葉が日本のマスメディア、日本の学術研究、海外の学術研究でどのように使われてきたのか、その歴史的な変化を明らかにすることである。結果、初期はマザー工場という言葉を「海外工場を継続して支援するユニット」という意味で用いていたが、時間が経つにつれて、日本の学術研究以外はマザー工場という言葉に対して多様な意味を持たせて使うようになったことが明らかになった。

Takahashi, N. (2016). Strategy and structure follow technology: A spinout proposition of J. D. Thompson’s Organizations in Action. Annals of Business Administrative Science, 15(1), 15-27. doi: 10.7880/abas.0150810a Download (Available online November 22, 2015)

Thompson (1967)のPart oneをChandler (1962)の理論編として再構成を試みる。技術を評価する二つの基準―手段的基準・経済的基準―のうち、まずは手段的基準で考えると、組織が成長する場合、技術から成長の指向性、すなわち成長戦略が現れる。次に、手段的には合理的な組織に対して、経済的基準を考えると、調整コストを最小にするために、横の部門化・縦の階層、さらに事業部制といった組織構造が必要になる。つまり、成長戦略と事業部制を議論した際、Chandlerは “structure follows strategy”と唱えたが、Thompsonは論理的に考えれば、実は“strategy and structure follow technology”のはずだと唱えていたのである。

Kuwashima, Y. (2016). Structural equivalence and cohesion can explain bandwagon and snob effect. Annals of Business Administrative Science, 15(1), 1-14. doi: 10.7880/abas.0150816a Download (Available online November 8, 2015)

顕示性の強い商品であるブランド品が、クチコミによって強い影響を受けることが既存研究から明らかになっている。しかし、相反するバンドワゴン効果とスノッブ効果は、既存研究では現れる条件が明らかにされておらず、仮に同時に働くのであれば相殺しあって無意味になる。そこで本稿では、免税店で売られているブランド品を対象にして、友人知人からなるパーソナルネットワークと所有商品の調査を行った。社会ネットワーク分析の結果、多数の同じアイテムを所有している人は、(a) cohesion関係にないことが分かり、(b) structural equivalence (SE) 関係にあることが分かった。すなわち、消費者ネットワークの特性のうち、(a) cohesionはスノッブ効果、(b) SEはバンドワゴン効果が働く条件であることが分かった。


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