ABAS Article List 2014 in APA Style


Shintaku, J., Nakagawa, K., Ogawa, K., & Yoshimoto, T. (2014). Competition and collaboration between Japanese and Taiwanese firms in optical disk industries. Annals of Business Administrative Science, 13, 353-367. doi: 10.7880/abas.13.353 (Available online September 28, 2014)

光ディスク産業では、日本企業が技術開発と商品化を先行してきたが、台湾企業や韓国企業が急速にキャッチアップして、生産量では日本企業を凌駕した。本稿の目的は、台湾における光ディスク産業に焦点を当てて、台湾企業の急速なキャッチアップと成長の要因を考察することである。分析の結果、台湾企業の事業活動は、日本企業との協調や国際分業を前提にして成立していることが明らかにされた。これは、急速にキャッチアップする後進国企業と先進国企業との間の関係は、競争的対立関係と同時に、共存関係もあることを示している。

Takahashi, N., Ohkawa, H., & Inamizu, N. (2014). Lukewarm feeling in Company X from 2004-2013. Annals of Business Administrative Science, 13, 343-352. doi: 10.7880/abas.13.343 (Available online September 14, 2014)

日本企業は、しばしば自らの「ぬるま湯的体質」を自己批判するが、実は、Takahashi (1989)によって、組織メンバーの感じるぬるま湯感は体感温度仮説によって説明ができることがわかっている。まず、システム温として、組織のシステムとしての変化性向を測定し、体温としてメンバーの組織人としての変化性向を測定する。そして、体感温度=システム温−体温と体感温度を定義すると、メンバーの感じるぬるま湯感は、この体感温度で説明ができるのである。本稿では、組織変革を成功させたX社を毎年度1回ペースで10回にわたって全数調査したX調査データを使って、体感温度仮説を検証、追試し、あわせてTakahashi(2012) のJPC調査のデータとの比較を行う。X調査でもJPC調査同様に、決定係数 R2=0.9840と驚くほどきれいな直線で、体感温度が上がるとぬるま湯比率が下がるという直線的な関係が現れてくる。

Mukai, Y. (2014). Technological change from analog to digital: Aircraft engine control system. Annals of Business Administrative Science, 13, 329-342. doi: 10.7880/abas.13.329 (Available online August 31, 2014)

Brusoni, Prencipe and Pavitt (2001) は、航空機用エンジンの制御装置が1980年代初頭にデジタル化したとみなし、それを組織統合度低下の原因としていた。確かに、その時期に導入され始めたFADECによって、制御対象は大幅に増加した。しかし、彼らが油圧機械式に分類した時期にも、アナログ電子式やスーパーバイザリ方式といったデジタル技術が徐々に導入されていた。さらに航空機用ターボファンエンジンの本体と制御装置の技術変化をみると、まず1960年代から70年代にかけて本体側の技術の向上(バイパス比、全体圧力比、タービン入口温度の上昇)がみられた。1980年代に入ると、本体側の技術はあまり変化しなかったが、FADEC導入による制御変数の増加という制御技術側の進歩があった。その後、1990年代には、再び本体側の技術が大きく進歩していた。このように、エンジン本体と制御装置の大幅な技術変化はつねに交互に起こっていた。この変遷をふまえると、本体と制御装置の技術変化率の均衡化や、相互依存性が予期しやすくなったことが、組織の統合度の低下の原因であるとする彼らの主張はあまり適切ではないと考えられる。

Okada, Y., & Inamizu, N. (2014). Effect of job type on perspective index: A case of Mito Shinkin Bank. Annals of Business Administrative Science, 13, 315-328. doi: 10.7880/abas.13.315 (Available online August 17, 2014)

本研究では、ある信用金庫のパートタイム職を含む全従業員を対象に、Takahashi (1997)で開発された組織活性化カルテoractikaを用いた調査が行われた。調査の結果、Takahashi (2014)と同様に、「見通し指数」は、職務満足との間にほぼ線形の正の関係があり、退職願望との間にはほぼ線形の負の関係があることが改めて確認された。つまり、見通し指数が高くなれば職務満足は高くなり、退職願望は低くなるということである。また、職種を分けて分析したところ、パートタイム職では、全体的に職務満足が高い傾向があることが明らかとなった。同時に、他の職種と比べて、退職願望は同等もしくはやや高い傾向が見られた。以上から、職務に不満を持つパートタイム職は退職してしまい、会社に残った人だけで見ると、職務満足が高くなることが示唆された。

Takahashi, N. (2014). Four side views of blue LED patent pricing. Annals of Business Administrative Science, 13, 299-313. doi: 10.7880/abas.13.299 (Available online August 3, 2014)

特許の値段の幅は、経営学的な四つの側面: (1) 当該特許の回避コスト、(2) 発明者である研究者・技術者自らがリスクを負担して起業した場合の創業者利益、(3) 経営戦略論のリソース・ベース理論で指摘されている競争優位を支える要因、(4) モチベーションに対する金銭の負のインパクト、で決まってくる。そのことを日本の青色LED訴訟のケースで例示する。本稿のfour side viewsから見えてくるように、会社が求めているものと、従業員発明家が求めているものの種類は異なっている。だからこそ、両者の共存共栄関係 が成立する。会社と研究者が、金銭という一次元の世界でのみ綱引きを繰り返していては、コンフリクトの解決は永遠に望めないであろう。

Ikuine, F., & Fujita, H. (2014). How to avoid fork: The guardians of Denshin 8 go. Annals of Business Administrative Science, 13, 283-298. doi: 10.7880/abas.13.283 (Available online July 20, 2014)

ソフトウェアについては、「今後もたえず開発を続けていく」という保証が最良の品質保証である。開発の継続のためには、原作者が開発を継続するか、あるいは開発者の世代交代が必要になる。世代交代のために、原作者がソースコードを公開する「オープンソース」と呼ばれる手法が採用されると、動機づけられた、開発能力が高い人々が、開発プロジェクトに参加する可能性が高まることはこれまでも指摘されてきた。そのため、プロジェクトの存続は容易になる。だが同時に、ソースコードを広く公開してしまえば、ソースコードの分岐の可能性も高めてしまう。ソースコードが分岐すると、高い能力と高い意欲をもつ人々が分散し、結果として、プロジェクトの存続が難しくなる。電信八号の事例では、ソースコード公開に際して、ソースコードの正統な守護者を決めることで、このジレンマを回避していた。オープンソースの代表例であるGNUプロジェクトとLinuxでも、それぞれ Richard StallmanとLinus Torvaldsが正統な守護者として分岐(fork)を回避していたと考えられる。

Sato, H. (2014). How do we understand organizational identity effect? Annals of Business Administrative Science, 13, 271-281. doi: 10.7880/abas.13.271 (Available online July 6, 2014)

組織アイデンティティとは組織の独自性を表す特徴である。その理解のためには個別的かつ具体的に把握する必要があり、事前に研究者がカテゴリーを設定して行う部門横断的な定量的研究を行うことは難しかった。そのため、これまで組織アイデンティティ研究においては定性的研究が主流であり、定量的研究はあまり行われてこなかった。しかし、組織アイデンティティ研究には、組織アイデンティティの内容を理解する側面と、その組織への作用を理解する側面がある。内容を理解するには、確かに定性的手法が適しているが、組織に与える影響を理解するには定量的手法も有効である。つまり、定性的手法を用いて組織アイデンティティの内容を把握した上で、例えば、それがメンバーの組織アイデンティフィケーションやメンバー間の指向性の違いに基づくコンフリクトの発生に与える影響を定量的手法で測定することができる。これからは、こうしたタイプの定量的手法を用いた研究も増えてくると思われる。

Kosuge, R. (2014). The integration of lean and socio-technical practices in Sweden. Annals of Business Administrative Science, 13, 255-269. doi: 10.7880/abas.13.255 (Available online June 22, 2014)

トヨタ生産方式を起源とするリーン・プロダクションは、業種を超えて普及するようになっている。その中で、スウェーデンの特にサービス業においては、目を見張る状況が生まれている。本稿の目的は、その背景を考察することである。スウェーデンでは、かつてボルボのUddevalla工場で見られたようなSocio-technical systemsの伝統にもとづく労働様式およびマネジメント・スタイルが、リーン・プロダクションに対抗するものとして位置づけられていた。しかし、「リーン」を顧客へ向けた付加価値の流れを淀みないものにしていくマネジメント・アプローチとして定義すれば、両者の統合がありうる。この点を例証するために、学校教育の事例をとりあげる。そこではUddevalla工場で見られたような、自律的チームにおけるreflectionが、「リーン」の実行に伴う問題解決において重要な役割を果たすことが示される。このような統合スタイルは、問題解決への関与を通じて内発的動機づけを引き出し、生かそうとする点で、トヨタ生産方式における「人間性尊重」を具現するものである。それはまた、特にサービスにおいて有効であると考えられる。

Takahashi, N., Ohkawa H., and Inamizu, N. (2014). Spurious correlation between self-determination and job satisfaction: A case of Company X from 2004-2013. Annals of Business Administrative Science, 13, 243-254. doi: 10.7880/abas.13.243 (Available online June 8, 2014)

日本のほとんどの大企業では、正社員は、いわゆる終身雇用制と年功賃金制の下で働いているが、このようなあまり成果給的要素のない条件下では、内発的動機づけがストレートに観察できるはずである。そこで、X社について毎年度1回のペースで行なわれてきた全数調査「X調査」の10年間で計13,019人のデータに基づいて、自己決定の感覚が高まると、職務満足も向上するというDeci (1975)の仮説の検証を行なう。その結果、自己決定度と満足比率の間には強い線形の関係が見られた。しかし、職種・職位によって、自己決定度の変動の帯域がほぼ決まっていることも明らかになる。このことは、自己決定度と満足比率の間の関係が疑似相関である可能性が高いことを示している。

Takahashi, N., Ohkawa H., & Inamizu, N. (2014). Perspective index in Company X from 2004-2013. Annals of Business Administrative Science, 13, 231-242. doi: 10.7880/abas.13.231 (Available online May 25, 2014)

組織変革を成功させた日本企業X社を毎年度1回10年度にわたって全数調査したX調査のデータを使って、見通し指数についての追試を行うとともに、JPC調査のデータ(Takahashi, 2012b)との比較も行う。X調査のデータでも、見通し指数と満足比率・退出願望比率との間にはほぼ完全な線形性があった。そして職種別、職位別にみると、組織改革をはさんで、年度によって大きく値が変動するものの、ほぼ直線上を動いていた。ただし、その直線の傾き、切片は、職種、職位によってやや異なっていたこともわかった。

Kuwashima, K. (2014). How to use models of organizational decision making? Annals of Business Administrative Science, 13, 215-230. doi: 10.7880/abas.13.215 (Available online May 11, 2014)

組織の意思決定を説明する場合、分析の視点やモデルを明確に意識せず、暗黙の内に組織が合理的な判断を繰り返したと仮定することが多い。しかし実際には、合理性だけでは説明できない場合もあるし、さらに、ある1つの組織的な意思決定でも、分析に使用するモデルによって解釈が異なる可能性もある。本稿では、Allison (1971)とLynn (1982)の古典的な研究を参照しながら、分析枠組みとしての組織的意思決定モデルの意義と、その使い方について検討する。Allison (1971)とLynn (1982)の研究は、いずれも複数のモデルを用いて 組織的な意思決定を効果的に説明している点では共通しているが、その使い方には違いがある。Allison (1971)はキューバ危機を3つのモデルで分析し、アメリカとソ連の意思決定について3通りの解釈を示す。ある1つの現象に対して複数のモデルを用いて多面的な説明を試みるのが Allison流のモデルの使い方である。それに対してLynn (1982)は、日本とアメリカの鉄鋼企業の新技術導入を対象として、企業ごとに1つのモデルを選択し、その意思決定を説明する。複数のモデルを比較検討した上で、分析者自身が、最も説明力が高いと考えるモデルを用いて説明するのが、Lynn流のモデルの使い方である。組織的な意思決定の分析を効果的に行うためには、(1) 分析フレームワークとしてのモデルを明確に意識し、その上で、(2) Allison流の使い方(複数モデルによる多面的な説明)をするのか、Lynn流の使い方(最適なモデルによる説明)をするのかを、目的にあわせて選択することが重要である。

Yamada, K. (2014). Spurious correlation between economies and scale: Model T Ford revisited. Annals of Business Administrative Science, 13, 199-214. doi: 10.7880/abas.13.199 (Available online April 27, 2014)

一般に、生産規模の拡大に伴う規模の経済性の発生は周知のごとく受け止められている。確かに規模と経済性との間には相関があるようにみえる。しかし、現実のものづくりの現場で起こっていることは、生産プロセス全体の「流れづくり」による生産性向上と生産量拡大である。実際、大量生産によって大幅なコストダウン(すなわち生産性の向上)が実現した典型例と考えられているT型フォードの生産システムでも、既存研究が明らかにしている姿は、「流れづくり」による生産性向上と生産量拡大である。たとえば、部品の標準化、生産工程の標準化、作業の標準化、等の一連の標準化によって、生産性が向上すると同時に、生産量も拡大する。すなわち、生産性と生産量の間の関係は疑似相関である可能性が高い。増産によって生産性が向上するとは限らず、事実、T型フォードでもそうだったのである。

Kobayashi, M. (2014). Industrial cluster formation and development: Software development outsourcing industry in Dalian. Annals of Business Administrative Science, 13, 183-197. doi: 10.7880/abas.13.183 (Available online April 13, 2014)

中国大連では、日本語人材の存在が、ソフトウェア産業における日本企業の進出を促し、日本企業とビジネスを行うハイテク企業の集積が形成されたと従来から指摘されている。しかし、それでは理解が短絡的である。本稿では、(1)集積初期の熟練労働者の創出に、進出した日本企業が大きな役割を果たし、(2)特定の日本企業との取引によって中核企業に成長した中国企業が自ら日本語人材の育成に取 り組み、他の日系企業を誘致し、(3)現在では外資系企業や現地中核企業からの人材のスピンオフによって熟練労働者市場が形成されているというような段階を経て、産業集積が形成されてきたことを明らかにする。

Akiike, A. (2014). Can firms simultaneously pursue technology innovation and design innovation? Annals of Business Administrative Science, 13, 169-181. doi: 10.7880/abas.13.169 (Available online March 30, 2014)

イノベーションには、技術イノベーションとデザインイノベーションという2つのタイプのイノベーションがある。各々のイノベーションは企業の業績に正の効果をもたらす。しかしながら、2005-2010年の携帯電話の外観・使いやすさ・技術的機能のデータを用いて分析した結果、日本市場において、携帯電話メーカーはTV機能の導入時2005-2007年には、外観を犠牲にして機能の向上を図っていたことが分かった。しかし 2008-2010年にはその問題は解消され、外観と使いやすさの両立も達成されていた。つまり、日本市場において企業は、外観(工業デザイン)よりもまずは技術イノベーションによる機能(進化)を優先する傾向があり、その後、デザインイノベーションで外観と使いやすさを追求する傾向があることが明らかとなった。

Mizuno, Y. (2014). Collective strategy for implementing innovation in SMEs. Annals of Business Administrative Science, 13, 153-168. doi: 10.7880/abas.13.153 (Available online March 16, 2014)

複数社が共同受注することで、中小企業1社では技術的資源が限られ引き受けられない注文も受けられるというcollective strategyは、実際にはなかなか機能しない。しかし、京都試作ネットでは「仕様が決まっていない」「見積もりを立てようがない」「常識から考えると 無茶苦茶な要求」といった他社が引き受けようとしない注文まで積極的に引き受けている。その好循環を生む理由は三つある。(1)参画時: メンバー企業は、利益や時間の5%程度を新たな取り組みや自社の成長、イノベーションの機会に充てる「5%ルール」実践の場だと覚悟して参画する。(2) 試作中: 最先端の研究開発に携わること自体で、従業員はモチベートされ、企業も研究開発に関する情報を得られる。(3)試作後: 最先端プロジェクトの受注実績を積むことで、実績がないために受注できないという中小企業の悪循環を断つことができる。こうして京都試作ネットでは、最先 端試作に積極的に取り組むことで、collective strategyを機能させる好循環メカニズムを確立したのである。

Sato, H. (2014). How to choose an appropriate dress?: An influence of change in organizational identity. Annals of Business Administrative Science, 13, 141-151. doi: 10.7880/abas.13.141 (Available online March 2, 2014)

組織アイデンティティの変化は、これまでの研究でも特に注目されてきた論点の一つである。既存研究では、組織アイデンティティは外部からのイメージとの相互作用の中で変化し、それが組織の行動も変化させるということが指摘をされてきた。しかしそこでは、新たな組織アイデンティティの選択の主体を明確にできていないことから、そのダイナミズムを十分に捉えられていない。そのため、組織アイデンティティの変化を考える際に、なぜその組織アイデンティティが選ばれたのかが明らかにならず、変化しているのか否かの判断があいまいにならざるを得ない。そこで本論文では、組織アイデンティティの変化を理解するためには、選択主体としてのマネジャーの存在が重要であることを主張する。組織内で、ある特定の組織アイデンティティが正当性を獲得するという政治的な交渉と意思決定のプロセスの中で、組織階層の上位に属するマネジャーが果たす役割を理解することが必要である。

Takahashi, N. (2014). Future parameter explains job satisfaction and turnover candidates in Japanese companies. Annals of Business Administrative Science, 13, 129-140. doi: 10.7880/abas.13.129 (Available online February 16, 2014)

日本企業では、組織メンバーはTakahashi (1996a; 2012b) が言うところの未来傾斜原理に則って行動しているのではないだろうか。そのことを直接的に検証するために、本稿では、組織に参加し続けるか、あるいは組織 を離れるか、という参加の意思決定に焦点を当て、その要因を未来係数の観点から解明する。そのために、未来係数の一種として Takahashi (1996a) が開発した「見通し指数」を使って、職務満足も退出希望も、見通し指数によって、ほぼ説明可能であることを、1992年〜2000年に年1回ペースで行な われたJPC調査約9,000人分の調査データで明らかにする。同時に、見通し指数が高くなるほど、現在の職務満足が退出希望に影響しなくな ることも明らかになる。職務満足と退出希望の間の相関関係は、実は未来係数の小さな世界で観察される現象だったのである。

Inamizu, N. (2014). Two densities for successful non-territorial offices: A case of Microsoft Japan. Annals of Business Administrative Science, 13, 105-127. doi: 10.7880/abas.13.105 (Available online February 2, 2014)

ノンテリトリアル・オフィスには(1)空間利用の効率化と(2)コミュニケーションの活性化の2つの効果があるとされてきた。そして、この2つの 効果を得てノンテリトリアル・オフィスが成功するにはオフィスの人口密度に着目する必要があると言われてきた。本研究では、実は、人口密度に関わ る指標には4つのものがあることを指摘する。この4つの指標を用いて日本マイクロソフト株式会社(日本MS社)のオフィス移転の事例を分析する と、(i)「在席人数/席数」に焦点を当てたノンテリトリアル・オフィス導入の試みはことごとく失敗し、(ii)導入時は「従業員数/席数」に、 導入後のコミュニケーション活性化においては「在席人数/オフィス空間面積」に焦点を当てたマネジメントが成功したことを示す。

Wada, T., Ichikohji, T., & Ikuine, F. (2014). Platform paradox. Annals of Business Administrative Science, 13, 91-103. doi: 10.7880/abas.13.91 (Available online January 19, 2014)

Porter (1998) は、生産資源の入手や市場へのアクセスの面で世界的な同質化が進む中で、産業クラスターにおける地域的な競争優位の構築の重要性が高まることを指摘し、グ ローバル化の時代にこそ立地が重要になることを「立地パラドクス」と呼んだ。同様に、産業横断的に利用されるプラットフォームが登場すると、企業 の技術基盤の世界的な同質化する一方で、差別化を実現するために企業特殊的な技術蓄積が求められるようになる。本稿ではこれをplatform paradoxと呼ぶこととし、その事例として家庭用ゲームソフト産業を取り上げる。同産業では、2000年代からゲームエンジンおよびミドル ウェアといった開発におけるプラットフォームの利用が一般化し、世界的に同質化が進んだ。日本の福岡市のゲーム産業クラスターでは、ゲーム開発企 業がこれらのプラットフォームを使いこなす技術力の高さで差別化するために、企業間で技術交流を進める協調体制を整備し、ハードウェアや開発ツー ルを使いこなすための知識交流を積極的に進めることによって、企業特殊的な技術蓄積を行っている。

Kobayashi, M. (2014). Relational view: Four prerequisites of competitive advantage. Annals of Business Administrative Science, 13, 77-90. doi: 10.7880/abas.13.77 (Available online December 22, 2013)

Dyer & Singh (1998)は、企業を分析単位とするのではなく、企業の組あるいはネットワークを分析単位とし、他社との関係性に着目して企業の競争優位を考える Relational view (RV)を提示した。しかし、RVの視点から競争優位を唱える際、そこで想定されているのが、トヨタとそのサプライヤー群という特殊ケースだということに 注意しなければならない。トヨタとそのサプライヤー群は、同じ日本の他の自動車メーカーと比べても、(a) 地理的に近く立地し、(b) 特殊資産の投資が多く、(c) 人的交流を通じた積極的な知識共有を進めていて、それを背後にある体系的な組織間学習の仕組みが支えている、という特殊性がある。それ故、RVで考えられ ている競争優位もまた、以上の前提条件を満たす会社でうまく発揮されると考えるべきである。さらに、特殊資産を増やし長期取引関係の優位性を説く RVの議論は、(d)製品の特性にも大きく依存している。仮に、自動車以外の製品、たとえばパソコンのように、頻繁に取引相手を変更し、短期取引で構わない製品に関しては、RVが妥当性をもつ保証はない。こうした考察から、RVの視点から競争優位をもたらす前提条件として、(a)〜(d) の4つを挙げて整理する。

Takahashi, N., & Inamizu, N. (2014). Logical weakness of "the strength of weak ties." Annals of Business Administrative Science, 13, 67-76. doi: 10.7880/abas.13.67 (Available online December 8, 2013)

本研究では、Granovetter (1973)のthe strength of weak ties理論には論理的な飛躍があることを示す。Granovetterは、「禁じられたトライアド」が存在するので、「ブリッジ」であれば「弱い紐帯」 となると述べる。しかし、実証的証拠を挙げる後半部分では「弱い紐帯」であれば「ブリッジ」であるというように、論理関係に逆転が生じてしまって いる。また、「禁じられたトライアド」も、「決して起こりえない」と言い切れる証拠は実はあまりないのである。

Shintaku, J., & Asaba, S. (2014). Intergenerational competitive strategies for industry standards. Annals of Business Administrative Science, 13, 47-66. doi: 10.7880/abas.13.47 (Available online November 24, 2013)

本稿は、まず業界標準の世代交代の阻害要因として、(1)インストールド・ベースの大きさ、(2)既存の規格のもとでの技術進歩の余地が大きいこ と、(3)蓄積技術の新規格への適用可能性の低さ、(4)投資負担能力の欠如を指摘する。次に、そのような阻害要因を克服して新標準へ移行する戦 略について整理する。最後に、家庭用ゲーム機産業を取り上げて、新規格導入における規格提唱企業と補完財企業との協調について分析する。その結 果、任天堂は伝統的に独断先行戦略をとっており、新規参入のソニーは協調戦略をとったことが明らかにされる。

Takahashi, N. (2014). Transfirm organization view. Annals of Business Administrative Science, 13, 31-46. doi: 10.7880/abas.13.31 (Available online November 10, 2013)

現代の日本においては、顧客や外部の利用者から見れば一つの組織に見え、かつ実態としても一つの組織として動いている「組織」が、法制度的にはい くつもの企業に分かれているケースが多い。「組織」は実態として機能しているネットワークやシステムの概念なのだが、「企業」はもともと制度であ り、境界、あるいは仕切りの概念だという違いがある。企業と組織は違う概念なのだという事実をいったん認めてしまえば、複数の企業が一つの組織と して機能しているといういまやまったく当たり前の光景に対する私たちの理解力と構想力は格段に向上する。こうした組織の見方に基づいた諸理論を 「超企業・組織論」“transfirm organization theories” と呼ぶ。系列、サプライヤー、パートナーシップ、アーキテクチャに基づく企業間分業、価値ネットワーク、産業集積、ユーザー・イノベーション、ゲートキー パー、情報粘着性、技術移転、トランスナショナル企業、組織文化、ドミナント・ロジックなどがtransfirm organization theoriesを構成している。超企業・組織が形成されるのは経済的理由からであろう。しかし、超企業・組織論の関心は、なぜ超企業・組織が形成される のかではなく、形成された超企業・組織の、組織全体のパフォーマンスなのである。

Ichikohji, T., & Katsumata, S. (2014). The relationship between innovation and consumption of internet users. Annals of Business Administrative Science, 13, 17-29. doi: 10.7880/abas.13.17 (Available online October 27, 2013)

インターネットユーザーのイノベーション活動と消費活動との関係は、一様ではない。本研究では、インターネット上の音楽ユーザーを対象にして、イ ンターネット調査によって得られた1000人のサンプルのデータを分析しているが、音楽への関与度の高低によって、イノベーション活動と消費活動 との関係も異なってくるのである。本研究では、音楽への関与度について、Lastovicka and Gardner (1979)が提示したComponents of Involvement尺度を用いて測定し、関与が低い層と高い層に分けた。そのうえで、それぞれの層について、「インターネット上に自分の楽曲・演奏を 公開する」イノベーション活動と「音楽ダウンロード消費の、1年間の平均的な消費額」で見た消費活動との関係を分析した。その結果、音楽に関与が 低い層では、イノベーション活動と消費活動の間に有意な関係があったが、音楽に関与が高い層では、その関係が見られなかったのである。すなわち、 低関与度ユーザー層では、イノベーションを行うユーザーはイノベーションを行わないユーザーの約4倍も消費している。それに対して、高関与度ユー ザー層ではどちらもほぼ同じ消費額であった。イノベーションを行う低関与度ユーザーの約半分の水準にとどまっていた。

Fujita, H., & Ikuine, F. (2014). Open source, a phenomenon of generation changes in software development: The case of Denshin 8 go. Annals of Business Administrative Science, 13, 1-15. doi: 10.7880/abas.13.1 (Available online October 13, 2013)

ソフトウェア開発の成功とは、単に「ある人物」「ある開発チーム」が開発に成功することではなく、開発者のあいだでスムーズに「世代交代」が行なわれて、一つのソフトウェアが長期にわたって次々とバージョンアップされていくことである。その時、世代の異なる開発者たちはソースコードを共有することになる。そのプロセスを、日本のフリーウェアの「電信八号」を事例として取り上げて分析してみよう。電信八号は、当初、原作者一人によってクローズドソースで開発され、頻繁なバージョンアップを媒介にして、ユーザを動機づけることに成功していた。やがてバージョンアップが滞りがちになると、それでも電信八号を使い続け、よりよくしたいという熱意を示し続けたユーザグループに対して、原作者はソースコードを公開し、今度はソースコードを継承したユーザグループが開発を継続する。この事例のように、ソフトウェア開発が成功し、開発者の世代交代が一つの会社の中にとどまらずに起きた場合には、「オープンソース」と呼ばれる現象が現れる。しかし、その逆は真ではない。つまりオープンソースになっても、開発が成功するとは限らない。


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