ABAS Article List 2013 in APA Style


Kim, H. (2013). Inpatriation: A review of three research streams. Annals of Business Administrative Science, 12, 327-343. doi: 10.7880/abas.12.327 (Available online September 29, 2013)

本国親会社の人材を海外に派遣する海外派遣についての研究は多いが、本稿では、海外子会社で採用した人材を本国親会社に出向させる逆駐在に関する 既存研究をレビューする。逆駐在員は、その立場、強み、役割などの面で海外派遣員とは明らかに異なる。逆駐在は、(1) 1980年代後半から日本企業におけるヒトの現地化のツールとして実態調査が行なわれるようになった。(2) 1990年代後半からは欧米企業における新興国市場対応策としての研究が始まり、Harveyの研究グループは逆駐在の必要性と逆駐在員が本社内で直面す る問題のマネジメントについて、Collingsの研究グループは戦略的なglobal staffingの重要性と逆駐在の発生要件について議論を展開した。(3) 2000年代に入ると、多国籍企業における知識移転のメディアとして、Reicheの研究グループは逆駐在員が果たす知識移転とその促進要因について議論 を展開する。ヒトの現地化といったコンテキストで80年代から議論されてきた逆駐在制度は、いまや新興国市場における市場知識の獲得・移転に悩む 多くの日本企業にとって新しい解決策になるかもしれない。

Mizuno, Y. (2013). Make provision for future growth under adverse circumstances. Annals of Business Administrative Science, 12, 311-326. doi: 10.7880/abas.12.311 (Available online September 15, 2013)

景気は企業業績に影響を与える。景気後退による企業業績悪化は不可抗力であり、一般的には、投資を抑制したり、人員を整理したりといった企業行動が選択される。しかし、協立電機の事例では、業績悪化の中で、その後の同社の中核となる戦略の方向性を意思決定し、好機と判断した人材、設備、M&Aなどに対して積極的な投資が行なわれた。これらが、次の景気回復期において中核技術の業界転用・周辺領域展開・海外展開や組織の成長に結びついた。しかも、同社は、業績低迷期が訪れる前に、顧客シーズの探索活動や技術転用できる業界の模索、資金の内部留保・調達方法の確保、社内組織体制の整備、縦割り組織の解消、権限委譲などを進めていた。その状況に耐えうる「備え」(provision)として、組織づくりを先に行なっていたのである。Chandler (1962)は好況期の成長戦略の後に組織づくりの時期が来るとして “structure follows strategy” と唱えたが、同社は、Chandlerの主張とは逆の行動パターンを選択することで、景気後退を成長のターニングポイントに変えていたのである。

Itohisa, M. (2013). Overlapping and frontloading: Seeking an effective product development process. Annals of Business Administrative Science, 12, 291-309. doi: 10.7880/abas.12.291 (Available online September 1, 2013)

本稿の目的は、オーバーラップ型製品開発プロセスにおいて、製品開発パフォーマンスが向上するメカニズムとその条件を明らかにすることである。 (1)製品設計(上流)と(2)量産準備(下流)のプロセスは、相互依存関係にあるが、X社における事例分析の結果から、製品Aの場合、(1)で、製品機能のノイズに対するロバストネス(頑健性)は十分に確保されておらず、(2)のその後の作業もやり直しの連続で、形式的にオーバーラップしていても製品開発リードタイムの短縮につながらなかった。ところが製品Bの場合、より多くの工数はかかるが、(1)に品質工学を導入し、とりあえずの情報のロバストネスを確保したことで、(2)の金型設計者は、量産手配前から積極的にとりあえずの情報を活用して、流動解析 など「金型の事前検討」を行うことができるようになった。それに加え、金型設計者は製品設計者のところに赴き、製造性に関する問題点を指摘するこ とで、量産手配前にdesign for manufacturingが実現できるようになった。このように、とりあえずの情報のやりとりだけではなく、実際に(2)量産準備を始められるようなフロントローディングを(1)製品設計で行うことが、実質的なオーバーラップを可能にする条件であり、その条件を満たしたときに、(2)での製造性 確保のためのやり直しの回数も大幅に減らすことができ、量産準備のパフォーマンスは大幅に向上し、全体のリードタイムも短縮できたのである。

Takahashi, N. (2013). On the future parameter. Annals of Business Administrative Science, 12, 277-290. doi: 10.7880/abas.12.277 (Available online August 18, 2013)

日本企業で見られる意思決定の多くは、ゲーム理論や決定理論から見ると一見不合理なものに感じられるが、実は「未来の重さ」によって導かれた合理的なものである。囚人のジレンマ・ゲームに代表されるような非ゼロ和の世界では均衡も安定ももはや説得的ではない。Axelrodのevolution of cooperationの研究では、現在の目先の利益や過去の裏切りへの復讐を選択せずに、これから将来の協調関係を選択するプレイヤーが生き残るとされる。繰り返し囚人のジレンマ・ゲームで、次回の対戦が行われる確率future parameterは、未来の重さを表している。未来の重さは、単なる概念としてではなく、経営の現場で、組織メンバーの実際の行動に意味を与えてきたし、実際に、手応え、やりがい、生きがいとなって、日本企業の社員の日常感覚の基礎をなしている。

Kuwashima, K. (2013). Three footnotes to "heavyweight product manager." Annals of Business Administrative Science, 12, 265-276. doi: 10.7880/abas.12.265 (Available online August 4, 2013)

本稿では重量級プロダクト・マネジャー (heavyweight product manager: HWPM) に関する3つの補足説明を提示する。HWPMは、Fujimoto (1989) による造語であるが、内部統合者と外部統合者を兼ねる強力なマネジャーをさす。Footnote 1: こうした製品開発プロジェクトのマネジャーに対して、Fujimoto (1989) があえて“プロダクト”マネジャーという名称を付けた理由は、時間的な責任・権限の幅広さ(製品開発プロジェクト終了後も、当該製品に責任・権限をもつこと)を強調するためであった。Footnote 2: Clark & Fujimoto (1991) において、HWPMの測定のために使われた内部統合指数、外部統合指数、および、両者を構成する組織変数のリストは、同書のAppendixに掲載されている。しかし、両指数の構成要素として指定されている組織変数は間違い(誤植)である。正しくは、両指数が指定する組織変数を逆にする(入れ替える)必要がある。Footnote 3: Clark & Fujimoto (1991) の実証分析では、「内部統合度は高いが外部統合度は低いケース」、「内部統合度は低いが外部統合度は高いケース」の両方を、「軽量級プロダクト・マネジャー組織」に分類している。しかし、2つの製品開発組織の特性は大きく異なる。両者を区別して分析することで、製品開発組織と製品開発成果との間の関係について、より深い洞察が得られる可能性がある。

Ikuine, F., & Fujita, H. (2013). Endless development is the best quality assurance: The case of "Hidemaru Mail." Annals of Business Administrative Science, 12, 251-263. doi: 10.7880/abas.12.251 (Available online July 21, 2013)

融通無碍なソフトウェアでは、その完成形を見極めるのが難しい。何をもってして完成品であるといえるのか不明である。それ故、完璧を期していては、いつまでたってもリリースできないので、とりあえず動くのであればリリースし、あとは、徐々に洗練していくしかない。その結果、ソフトウェアについては、「今後もたえず開発を続けていく」という保証が最良の品質保証であるという暗黙の通念が確立した。そのことをWindows対応の高機能メールソフト「秀丸メール」の事例で見てみることにしよう。IT化が進む現在、ソフトウェアの品質保証の考え方は、より広い製品やサービスにも適用できる可能性がある。

Takahashi, N. (2013). A hypothesis about lukewarm feeling in Japanese firms. Annals of Business Administrative Science, 12, 237-250. doi: 10.7880/abas.12.237 (Available online July 7, 2013)

日本企業は、しばしば自らの「ぬるま湯的体質」を自己批判するが、実は、Takahashi (1989)によって、組織メンバーの感じるぬるま湯感は体感温度仮説によって説明ができることがわかっている。まず、システム温として、組織のシステムとしての変化性向を測定し、体温としてメンバーの組織人としての変化性向を測定する。そして、体感温度=システム温−体温 と体感温度を定義すると、メンバーの感じるぬるま湯感は、この体感温度で説明ができるのである。1990年〜2000年に毎年実施されたJPC調査のN=10,536人分のデータを用いて体感温度仮説を検証すると、決定係数R2=0.9886と驚くほどきれいな直線で、体感温度が上がるとぬるま湯比率が下がるという直線的な関係が現れてくる。さらに、ぬるま湯感や体感温度が景気後退の先行指標となっていたことも明らかになる。

Akiike, A. (2013). Where is Abernathy and Utterback Model? Annals of Business Administrative Science, 12, 225-236. doi: 10.7880/abas.12.225 (Available online June 23, 2013)

Abernathy-Utterback model(A-U model)はイノベーション研究に大きな影響を与えており、多くの論者が取り上げている。その多くはAbernathy and Utterback(1978)を引用しているが、Abernathy and Utterback(1978)では、ドミナント・デザイン(dominant design)のアイデアがモデルに明示されておらず、我々がイメージしているA-U modelとは異なる。多くの論者が取り上げるA-U modelは、実は、Utterback and Abernathy (1975)、Abernathy and Utterback (1978)、Abernathy (1978)という3つの主要な業績を経て段階的に積み上げられて形成されてきたものであり、Abernathy(1978)で完成し、それが我々がイメージするA-U modelとなっているのである。しかしながら、A-U model が普及する過程で大きな影響力を持ったTeece(1986)やUtterback(1994)が、その完成形のA-U model をAbernathy and Utterback(1978)のモデルとして引用して取り上げたため、それが孫引きされ、A-U model= Abernathy and Utterback(1978)のモデルであると誤って流布してしまった。そもそも、Abernathy and Utterback(1978)の論文は、タイトル・ページ(p.41)より前のページ(p.40)にA-U modelの図が本文とは独立に登場するという不思議な構造をしており、その図について、本文中(pp.41-47)には説明がなく、言及もされていないのだが、そのことを知らないで引用している研究者も多いのである。

Kuwashima, K., & Fujimoto, T. (2013). Performance measurement in product development research: A literature review. Annals of Business Administrative Science, 12, 213-223. doi: 10.7880/abas.12.213 (Available online June 9, 2013)

本稿では、製品開発成果の測定指標に注目しながら製品開発研究のレビューを行う。製品開発成果の主要な測定指標には(1)成功度(or成功/失敗)、(2)生存、(3)商品力、(4)開発生産性・開発期間の4つがある。製品開発研究の歴史を、成果の測定指標の側面から捉えた場合、同研究領域の成立期である1960年代から1980年代までは、(1)の指標を採用する研究が多かった。それに対して、1990年代以降は、(4)の指標を採用する研究が主流となった。この変化のきっかけとなったのが、ハーバード大学のClarkとFujimotoによる自動車産業の国際製品開発プロジェクトの比較調査 (Clark & Fujimoto, 1991) である。Clark and Fujimoto (1991)は、製品開発の成果指標として、「開発生産性(開発工数)」「開発期間」「総合商品力」の3つを採用し、これらに影響する組織・プロセス・戦略変数を統計的に分析するという革新的な実証研究手法を提案したのである。

Oki, K. (2013). What is the ideal diversification strategy?: Reconsideration of diversification strategy research of Rumelt. Annals of Business Administrative Science, 12, 199-212. doi: 10.7880/abas.12.199 (Available online May 26, 2013)

多角化戦略に関する基礎的研究であるRumelt (1974)では、DC戦略(Dominant-Constrained strategy)とRC戦略(Related-Constrained strategy)が高い業績をもたらす可能性が明らかにされた。しかし、これらが望ましい多角化戦略とはいえないことは、Rumelt自身がRumelt (1982)で明らかにしている。その理由は産業の効果が企業の業績に影響を与えているためである。そこで本稿は、Rumelt (1974)のデータを改めて整理、検討し、特定の戦略を取る企業が特定の産業に多い傾向があることを明らかにした。例えば、業績が高いとされたRC戦略を取る企業は、一般機械産業、化学産業、医薬品産業に多かったのである。

Ichikohji, T. (2013). The influence of introducing IT into production system: A case of Japanese animation (anime) industry. Annals of Business Administrative Science, 12, 181-197. doi: 10.7880/abas.12.181 (Available online May 12, 2013)

情報技術の導入は制作体制にどのような影響を与えるのか。本研究では日本のアニメ産業を事例に、その制作工程を工程ごと、技術ごとに詳細に検討することで、情報技術導入による制作工程の変化並びに効果、制作工程の内製・外注の変化について明らかにする。対象とする工程は、「彩色」工程以降・並びに「作画」工程である。特に作画工程では、3DCGとデジタル作画の二つの技術を取り扱う。結果として、以下のことが明らかになった。第一に、情報技術は、低コスト化や高品質化のメリットが顕在化されるまで導入されない。第二に、情報技術を導入された工程が内製されるようになるか・外注されるようになるかに関しては、以下のいくつかの点に依存する。外注から内製につながるのは、情報技術の導入によって、複数の工程が統合されるか、制作工程の柔軟性が向上する場合である。一方で、内製から外注につながるのは、デジタル化されたデータがストレージメディアやインターネットを通じて納入されるようになり、外注コストが低下する場合である。

Takahashi, N. (2013). Behind the learning curve: Requisite of a scale perspective. Annals of Business Administrative Science, 12, 167-179. doi: 10.7880/abas.12.167 (Available online April 28, 2013)

累積生産量が増えれば、単位あたりの生産コストが減少していく様子を表した学習曲線。しかし、結果的にたくさん生産しても学習曲線は実現しない。生産規模が大きくなることを期待して生産技術を変えること、すなわち機械器具を設備して量産態勢をとること、あるいは大量生産に合った製品デザインを採用することが、コスト低減の大前提なのである。言い換えれば、天井心理に陥る以前に、経営者が大量に生産をすると決断することこそが、学習曲線実現の第一歩なのである。プロトタイプにはプロトタイプの製作の仕方があり、10台作るのなら10台作る作り方がある。100台には100台なりの、そして1万台生産するのであれば1万台を効率的に生産する量産方法がある。最初から、いつまでに累積何万台生産するという見通しがあればこそ、それなりのやり方を現場は考えるのである。「ものづくり経営」のスケール観や経営者としての確信に満ちた見通しがあってこそ、はじめて学習曲線は現れてくる。技術的選択の前提としての経営的スケール観。ここに学習曲線の秘密がある。

Fujita, H., & Ikuine, F. (2013). Free and open source are not necessary conditions of successful development: The case of "Hidemaru Mail." Annals of Business Administrative Science, 12, 151-166. doi: 10.7880/abas.12.151 (Available online April 14, 2013)

無償のオープンソースであることは、ソフトウェア開発成功の必要条件ではない。ソフトウェア開発の成功指標の一つが「早めで頻繁なバージョンアップ」であるならば、ユーザがテスターやデバッガのように機能することが重要なのであって、自らソースコードを修正する必要はないからである。実際、有償で非オープンソースの日本のシェアウェア「秀丸メール」の開発では、一部のユーザがテスターやデバッガのように機能している。そして秀丸メールの場合、開発者の早めで頻繁なバージョンアップというのは、実は、結果あるいはパフォーマンス指標なのではなく、ユーザの内発的動機づけを引き出し、テスターやデバッガとして機能させるための手段だったこともわかった。事実、秀丸メールでは、開発者がユーザのほぼすべての要望や報告に懇切丁寧に対応し、早く、頻繁にバージョンアップすることで、ユーザをさらに要望や報告を提出するように動機づけている。従来の議論は、ソースコードがオープンかどうかにこだわりすぎていて、ユーザをいかにテスターやデバッガのように機能するように動機づけるかという組織論的な視点に欠けていた。ソースをオープンにすることでユーザを動機づける可能性は確かにあるが、だからとって、オープンソースにすることが必要条件なのではなく、できるだけ多くのユーザを開発に協力するように動機づけることが必要条件なのである。それができれば、無償か有償か、オープンか非オープンかには関係なく、ソフトウェア開発は成功する。

Oki, K. (2013). Why do Japanese companies exploit many expatriates?: Analysis of overseas subsidiaries in Japanese companies. Annals of Business Administrative Science, 12, 139-150. doi: 10.7880/abas.12.139 (Available online March 31, 2013)

日本企業の海外子会社25社を、海外派遣社員が多い企業と少ない企業、及び高度な機能をもつ海外子会社とそうでない海外子会社に分類してクロス表を作成すると、高度な機能をもつ海外子会社では、海外派遣社員数の少ない会社はほとんどないことが分かった。日本企業は、欧米の多国籍企業と比較して、海外派遣社員を多用する傾向にあることが指摘されるが、実は、その背景には、日本企業の海外子会社の機能が高度であることも一因ではないだろうか。

Takahashi, N., & Takamatsu, T. (2013). UNIX license makes Linux the last major piece of the puzzle. Annals of Business Administrative Science, 12, 123-137. doi: 10.7880/abas.12.123 (Available online March 17, 2013)

UCB (University of California at Berkeley)で開発されたUNIX、BSDは、1992年から1994年にかけて、AT&Tが起こしたライセンスに関する訴訟に巻き込まれていた。他方、当時、AT&Tのライセンスに触れないフリー・ソフトウェアとしてUNIX再現版システムを開発していたGNUプロジェクトのジグソー・パズルは、カーネル(kernel)を除いてほぼ出来上がっていた。まさにその「最後のピース」として渇望されていたカーネル、すなわちAT&Tのライセンスから自由で、かつソース・コードが公開されているフリー・ソフトウェアであるUNIX風カーネルとして、Linuxが登場したのである。UNIX型のOSはもともとツールと呼ばれる単機能プログラムの集合体であるために、差し替えがうまくいきやすい。こうした条件の下で、「PCで動くUNIX」のフリー・ソフトウェアが、ごく短期間のうちに完成した。Linux成功の本質は、奇跡的な投入のタイミングにあった。無償、オープン・ソースという条件を揃えても、この現象には再現性がないのである。

Inamizu, N. (2013). Positive effect of non-territorial office on privacy: Allen's experiment secret. Annals of Business Administrative Science, 12, 111-121. doi: 10.7880/abas.12.111 (Available online March 3, 2013)

1970年のAllenらのノンテリトリアル・オフィスの実験に触発されたといえる80年代以降の環境心理学のオフィス研究では、オープンなオフィスにおけるプライバシーが問題視されていた。しかし、1970年のAllenらの実験ではプライバシーに改善傾向が見られたという。なぜAllenらの実験ではプライバシーが問題にならなかったのだろうか?実は、Allenらのいうノンテリトリアル・オフィスとは(1)オープン化だけでなく(2)自由席化をも実現したものだった。改めてAllenらの実験を検討してみると、固定席ではなく自由席なので、従業員はオフィス内を自由に動き回ることができ、他者との相互作用を調整しやすくなっていた。その結果、プライバシーが改善したと考えられた。つまり、ノンテリトリアル・オフィスのオープン化の側面だけを取り上げるのは適切ではない。自由席化の側面もあわせて考える必要がある。そして、自由席化も考慮すると、むしろプライバシーの問題は改善される可能性が高いのである。

Oki, K. (2013). Immature brand management of electronics retail stores in Vietnam: New explanation of predicament of Japanese companies in emerging markets. Annals of Business Administrative Science, 12, 99-110. doi: 10.7880/abas.12.99 (Available online February 17, 2013)

本稿は、ベトナムの家電量販店に対する現地調査を通じて、ベトナムの家電量販店におけるブランド管理が未熟であることを明らかにした。先行研究では日本企業の新興国市場での苦境の主な理由として、製品の高価格が挙げられていた。しかし本稿の発見からは、高価格が許容される品質・機能を、新興国の現地販売店がアピールできていないことに苦境の一因があることが示唆された。そのため、製品の価格を下げる努力だけでなく、製品の品質・機能を正しく伝えるための取り組みを、販売チャネルで行う必要がある。

Kuwashima, K. (2013). "Customer's customer" strategy: An empirical study of product development in Japanese chemical industry. Annals of Business Administrative Science, 12, 89-97. doi: 10.7880/abas.12.89 (Available online February 3, 2013)

一般に、産業財の製品開発では、顧客が専門知識をもった企業であることから、顧客の要望にきちんと従うことが重要であるといわれる。しかし、日本の化学産業(chemical industry)を調査したところ、そうした製品開発パターンは、むしろ失敗プロジェクトに見られた。逆に、成功プロジェクトでは、自社の顧客の先にいる顧客、すなわち「顧客の顧客」に直接アプローチして潜在ニーズを先取りし、コンセプト提案型の製品開発を行う傾向があった。実際、そのような成功事例も存在している。本稿では、そうした製品開発アプローチを「顧客の顧客」戦略と呼んでいる。

Takahashi, N. (2013). Jumping to hasty experience curves: The learning curve revisited. Annals of Business Administrative Science, 12, 71-87. doi: 10.7880/abas.12.71 (Available online January 20, 2013)

経営戦略論では経験曲線(experience curve)が経験則として取り扱われている。しかし、産業、企業、製品を問わず、学習率80%前後の対数線形型経験曲線になることが経験則であるかのように扱うことは明らかに早合点のし過ぎである。学習曲線(learning curve)に関する基礎研究によれば、すべての部品、完成品について、進歩のプロセスを最初から観察しているわけではないので、学習率が同じであることは、論理的にありえないし、実証データでも否定されている。そして、探索理論のモデルを使えば、学習曲線は対数線形型で近似されるものの、進歩のプロセスを最初からではなく、途中から観察している場合には、初期凹性が見られることも分かっている。それぞれの製品には固有の学習率があること、そして、曲線に初期凹性があることは、いずれも、進歩のプロセスを最初からではなく、途中から観察しているために起こる現象だったのである。

Sato, H., & Fujimoto, T. (2013). New product development in financial industries: Media tangibility and media durability of financial products. Annals of Business Administrative Science, 12, 63-70. doi: 10.7880/abas.12.63 (Available online January 6, 2013)

金融商品を分析する場合にintangibility, simultaneity, heterogeneity, perishabilityというサービス業の特性をそのまま適用することは不適切である。媒体の特性から考えると、金融商品は無形だが耐久性はある。そのため、金融商品の開発では事前に設計する余地が大きく、既存の製品開発論における知見が有効であると考えられる。さらに、金融商品開発においては、ハードウェアプロダクト以上にリードタイムの短縮やコミュニケーションの重要性が高いと考えられる。

Kim, H. (2013). Local engineers as knowledge liaison: How Denso India succeed in developing wiper-system for Tata Nano. Annals of Business Administrative Science, 12, 45-62. doi: 10.7880/abas.12.45 (Available online December 23, 2012)

現地顧客のニーズを的確に反映した現地化製品の開発は、グローバル標準品で事業展開をしてきた多くの日本企業にとって悩ましい問題である。なぜなら、コストや性能に関する現地顧客の感覚及び価値基準は暗黙的な市場知識だからである。それ故、日本人エンジニアが持つ技術知識だけでは現地化製品の開発を成功させることは難しく、現地人エンジニアの役割が重要となる。デンソー・インドの事例では、現地においてのエンジニアリング機能強化のため、1990年代末の工場立ち上げ時から日本研修を行い、確実に設計・開発業務ができる人材を育成してきた。それが、本国の技術知識と現地の市場知識とを効果的につなげるのに役立っている。現地人エンジニアの本国研修を通じて、本国の技術的リソースとより効果的な連携がとれる人材を育成することができた。また、現地人エンジニアは、現地顧客と暗黙的な市場知識を共有しているため、顧客ニーズをより正確に観察・解釈し、製品コンセプトとして仕上げることができる。本事例は、本国の技術知識と現地の市場知識を繋げる役割として、現地人エンジニアの育成と活用の重要性を指摘している。

Kuwashima, K. (2013). Followers of Harvard Study: A review of product development research 1990s-2000s. Annals of Business Administrative Science, 12, 31-44. doi: 10.7880/abas.12.31 (Available online December 9, 2012)

製品開発マネジメントの研究領域では、1990年代、Clark & Fujimoto (1991) による金字塔的な研究“ハーバード研究”を基礎として、研究アプローチの多様化が起こった。新たに台頭した主な研究アプローチは、製品や産業特性を考慮して効果的な製品開発マネジメントを明らかにする「製品・産業特性アプローチ」、個別プロジェクトを越えて複数プロジェクトを分析対象とする「マルチプロジェクト・アプローチ」、長期的な視点に立ち製品開発の動的な側面に注目する「ダイナミック・アプローチ」、製品開発を問題解決プロセスと捉える「問題解決アプローチ」、高い製品開発パフォーマンスをもたらす組織能力を明らかにする「組織能力アプローチ」の5つである。

Inamizu, N., & Wakabayashi, T. (2013). A dynamic view of industrial agglomeration: Toward an integration of Marshallian and Weberian theories. Annals of Business Administrative Science, 12, 13-29. doi: 10.7880/abas.12.13 (Available online November 25, 2012)

本研究は、まず、産業集積論の古典とされるMarshallとWeberの理論を整理する。これにより、Weberの理論は「何もない状態から予想可能な利益をもとに集積が発生するプロセスを考察」しており、Marshallの理論は「作り出された集積が自己強化的に存続するプロセスを考察」しているという違いが明らかになる。このため、これら2つの理論を別々に見ていては、産業集積のダイナミズムを解明することは期待できない。そこで、本研究は、これら2つの理論を統合することで、産業集積を動態的に見るための枠組を示す。具体的には、産業集積外の市場から需要を取り込み、産業集積内のネットワークを生かしてそれに対応する「ゲートキーパー」的企業の存在に着目することである。

Takahashi, N., Shintaku, J., & Ohkawa, H. (2013). Is technological trajectory disruptive? Annals of Business Administrative Science, 12, 1-12. doi: 10.7880/abas.12.1 (Available online November 11, 2012)

Christensenは、Dosi (1982)による技術的トラジェクトリの破断(disruptive)概念を用いて、破断的イノベーション(disruptive innovation)を論じた。Christensenの一連の業績では、ハード・ディスク・ドライブについて、横軸に時間、縦軸に性能をとった “同じグラフ” が何度も転載され、用いられている。ところが、その形状や縦軸が論文によって異なり、疑念がある。実際、縦軸の測り方によって、技術的トラジェクトリの破断/持続(disruptive/sustaining)の見え方が変わってくるのであり、本来の技術的トラジェクトリを描くという目的からすれば、ハード・ディスク・ドライブの場合には、縦軸としては、体積記録密度を使う方が適切だったと思われる。さらに、対重量あるいは対消費電力などで補正して縦軸を工夫すれば、ハード・ディスク・ドライブの技術的トラジェクトリが破断しない可能性がある。そうした技術的トラジェクトリを描くのに適した性能の尺度を見出す前に、破断している(disruptive)と結論を出してしまったのではないだろうか。


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